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設計者のための免震入門(1) 地震対策としての免震構法
免震構造への道程
 免震構造(Base Isolation System)の思想は、建築技術の分野では古くから、震害の発生とともに存在したと思われる。表1に我が国における免震構造への道程の概略を示す。文献の上で特に免震をうたったものは、1891年に河合浩蔵が提案した「地震ノ際大地震ヲ受ケザル構造」である。これは、振動に対して鋭敏な機器を収納する建築物の構造について述べたものである。また、海外では1909年のイギリス人医師J. A. Calantarientsによる特許が最も古い。彼の特許は、構造体を滑石(雲母)の層を介して基礎から隔離するというものであった。関東大震災の翌年(1924年)には山下興家氏のバネ付き柱や鬼頭健三郎氏のボールベアリング装置等が提案されている。また、1928(昭和3)年以降、岡隆一氏は免震基礎(両端ピンの免震柱)を提案し、幾つかの建物に適用している。1938年に、鷹部屋福平氏は建物屋上に設置した層の慣性力を利用した制震構造も提案している。
年代
キーワード 主なトピック
1920年代
〜1930年代
関東大震災 Ball Bearing装置(鬼頭健三郎)、バネ装置付柱脚(山下興家)、端部ピンの免震柱(岡隆一)などの免震構法が提案される。佐野利器・真島健三郎両博士による柔剛論争この論争は結局、曖昧な形で終わる。これは地震波の性質の解明や振動応答解析手法の発達が十分でなかった為である。
1920年代〜 震度法 剛構造の時代(震度k=0.1〜0.3)この時代、免震構造の研究は停滞する。
1960年代〜 高層建築の登場 高さ制限撤廃(1964年)、霞ヶ関ビル完成(1968年)電子計算機の開発・利用が始まる。
1970年代〜 振動応答解析手法 新耐震時代(建設省総合プロジェクト1977年)欧・米・ニュージーランドにおける免震構造の研究開発
1980年代〜 免震構造の解禁 ポスト新耐震時代(RC造免震住宅完成1983年)解禁・導入開発競争免震構造設計指針発表(日本建築学会1989年)
1990年代〜 免震構造の普及
阪神大震災
第一次成熟化を経て普及化の時代へ免震構造設計指針改訂(日本建築学会1993年)日本免震構造協会発足(1993年)阪神・淡路大震災(1995年)構造設計における地震入力からの解放耐震構造設計の時代から耐震空間設計の時代へ
表1 我国に於ける免震構造への道程


 その間、昭和初年から約10年間にわたる、いわゆる柔剛論争があり、結果的には耐震工学の未成熟もあり、剛構造思想による設計法が法律に裏打ちされて主流となり、免震的な耐震設計法は設計の舞台から外されてしまう。柔剛論争に採りあげられた動特性に関する問題点は、当時の科学技術ではその姿は捉えられないこと、振動現象による破壊に対して、現実の建築物の耐力にはなお相当の余裕があるとの考えから、形の上では無視された。
 1923年の関東大震災以来、日本の耐震建築には剛構造での設計手法が採用されてきている。剛構造では、地震のエネルギーの大部分が建物に入り、地動は更に増幅されて建物上層部は地震動の数倍の大きさで揺れる。このため、建物内の人々は立つこともできなくなり、かつ内部の什器,コンピュータなどは転倒、散乱するなど、その恐怖感は想像を絶する。こうして建物の機能は麻痺し、機能回復には多くの時間と費用が必要となる。2004年新潟県中越地震では余震におびえた住民が、自宅に帰ることができず、自家用車の中で寝起きするといったケースは記憶に新しい。
 振動理論と耐震設計が結びつき始めるのは、1960年代からである。1964年の高度制限撤廃告示(建物高さ31mの制限の撤廃)、動的解析手法の普及に伴う1981年新耐震設計法の施行により、一応の体系化が終了した。
 1970年代には、コンピュータや構造解析手法の発達により、地震時の建物挙動をある程度推定することができるようになった。かくして、日本にも超高層建築の時代が到来した。低層建物に比べ、超高層建築は相対的に建物が柔らかくなる。地震時には、骨組が全体的に柔らかく変形することで地震力を吸収する仕組みとなっている。各階で小さな変形が発生し、これが総和されて建物全体としては相当大きな変形が、ゆっくりと生じることになる。このため、骨組の損傷は少なくなったが、空間の安定性は殆ど改善されていない。このような従来型耐震構造設計法に代わり、骨組と空間の安全性を確保する設計法(耐震空間設計法)として免震構造が登場した(図2)。
図2 建物内部の状況(米国DIS社のパンフレットより転載)





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