解析とモデル化 |
解析の手段は数学であり、力学である。その意味で、設計が技術的であるのに対して、解析は科学的であると言えよう。 |
モデル化は構造設計と構造解析との間の"橋渡し"的役割を果たすものとなる。それは設計能力の重要な一部を受け持つものであり、解析の成果はモデル化の如何にかかっているとも言える。しかし、下手をすると、解析からのフィードバックが無意味に終わり、設計そのものを誤らせてしまう可能性がある(図1)。 |
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現状では、設計(実体)を完全にモデル化し解析することはできない。モデル化には何らかの仮定、抽象化などの不確定な要素をともなっている。
設計(実体)とモデルとの間に横たわる不確定要素は定量化されているのか。例えば、支持方法をピンでモデル化しても実際には半固定であったりするのはよくあることである。逆に、ピンと見なすためには、どういったディテールとすべきか。更には、動的効果、スケール効果、弾塑性特性などを含め、モデル化されていない部分、モデル化できていない部分の影響をどう評価し設計に反映するのか。不確定な要素を減らすようにするには、逆に実体を単純化しモデルに近づけることも必要となる。 |
1995年1月17日午前5時46分、阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)では直下型地震が大都市部を襲い、近年まれにみる大きな人的・物的被害を引き起こした。このような甚大な構造被害に鑑み、耐震設計手法の妥当性が論議された。しかし、大きな被害を受けた建物の近くに、ほとんど無被害に見える建物が何事もなかったかのように建っていたり、今まで見られなかった接合部の損傷などが発見されたり、今後の検討課題も多く残された。我々はできあがった建築物の本当の性能を把握しているのであろうか。
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建築構造物は、設計図や仕様書に要求されている通りにはなかなか出来上がらない、ということも耳にする。材質、寸法ともに建設にかかわる人達の長期にわたる誠実さを重要な支えとしている面が大きい点を無視するわけにはゆかない。特に構造については、完成後の検査修正が困難であり、性能を検査する方法も不十分である。 |
もう一つの重要な点は、設計結果を確認出来ないことである。予期せぬ結果と失敗の蓄積が科学技術の進歩に重要な役割を果たす。殆どの工業製品は現実使用によって性能が確認できるが、建築構造の確認はなかなか出来ない。従って、設計や建設の経験は蓄積されるが、構造設計即耐震設計の様相を示している我国のシステムでは細部にわたる検証は殆どなされてきていない。 |
静的設計では、骨組の耐力や変形能力が所定の値以上あることを確認することで安全性を検証したことにしている。これに対し、動的設計では耐力がそれ以上あれば良いというものではなく、ある所定の範囲に入っていないとモデル化の妥当性や応答の信頼性が確保できない。 |
解析法やモデル化が一般化しだすと、その適用範囲が次第に拡大されて使用される傾向にある。モデルの適用性や解析法とのバランスを常に意識することが必要である。 |
解析法の進歩や基準化が、設計力に貧困化への道をたどらせないことを願う。分析的な研究は、自然に深化が進行するが、それらの総合的適用の高度化はなかなか進行し難いものである。 |
これらの問題の解決に向けて、建物の安全性と耐震設計(免震・制震設計も含め)の考え方や手法などについて真摯に取り組むべき環境が創られる必要がある。 |