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設計者のための免震入門(2) 免震構造と耐震安全性
 
真の免震建築実現のために
 在来構法の設計では、解析モデルと実構造物との差が明確ではなく、またそれを検証する手段も不充分であった。このため、設計には幾つもの不確定要素が存在し、これを工学的判断に基づき設計者が解決してきた。免震構造では、在来構法に見られていた不確定要素の大部分について、その不確定性の度合いを小さくしたり、不確定な要因そのものを無関係なものとすることが出来るようになる。このことは、免震構造の解析結果と実構造物での試験や地震観測などの結果が良く対応していることからもわかる3)
 免震建物の応答評価に関して、免震構造設計指針(日本建築学会)では時刻歴応答解析とエネルギーの釣合に基づいた方法が示されている。免震構造の応答評価に当たっては、地震入力の設定、解析手法の選択、免震部材の性能評価などについて慎重であるべきである。2000年に改正施行された建築基準法・告示において免震構造は限界耐力計算に準じた方法(等価線形化手法)で応答を検証する手法が用意された。この手法の適用範囲については十分な検討がなされていない4)。免震構造の動的特性を十分理解しないまま法の手法を適用した場合、免震構造とはいえないような免震建築も設計可能となっている。免震構造の性能を耐震構造の最低基準にあわせること自体無意味である。今後、免震構造に求められる最低基準とはどういったレベルであるべきかについて十分議論を深める必要がある。
 同じ建物を在来構法と免震構法を用いて設計した場合、ベースシヤー係数は免震構法を用いた方が格段に小さくする事が可能である。不確定性の度合いは、ベースシヤー係数の大きさに比例して増減すると考えられる。即ち、上部構造の応答は弾性範囲とすることが可能であり、上部構造の弾塑性性状やエネルギー吸収能力の把握は重要ではない。更に、応答せん断力と共に転倒モーメントも小さくなる。地業に及ぼす影響が低減され、地震動に伴う不同沈下の軽減につながる。この様なことから、免震構造とすることで地盤も含め構造物系全体の安全性を格段に向上させる事ができる。
 従来の設計手法が、工学的判断に基づいて、モデルを出来るだけ実建物に近づけるように努力するのに対し、免震設計では既に理想のモデルが存在し、これに合致するように建物を設計することができる。これは思考のプロセスが全く逆であり、免震構造は新たな設計概念と単純明快な手法を提供している。免震構造の登場は、在来型の耐震設計に全く新しい設計の選択肢を加えるものであり、従来日本では耐震的に不向きであるとして禁止的に対処されてきたMasonry建築等にも、その具体的可能性を提供するものである。
 アイソレータやダンパーに対する性能確認、品質管理体制、納品・受取のあり方等は、これまで個別に慣例的に行われてきた方法が用いられてきている。しかし、これらの方法は統一されておらず、その効果や妥当性の確認は十分ではない。免震部材の品質としてどこまで要求するのか、性能をどのように測るのかなどについての幅広い議論が必要である。
 現在、免震部材を取り巻く環境は、望ましいものとは言い難い。法改正により免震建築は、在来建築と同様に建築確認による建設が可能となっている。この点は設計者の負担を減らし、免震設計を普及させることに役立つと思われる。しかし、免震部材は認定材料となり、部材性能の認定が行われないと使用できないこととなった(免震部材を"免震材料"と呼ぶこと自体おかしい)。これにより個々の免震部材の特性値が同様の評価手法により横並びで比較できるなどの利点はあるものの、性能の評価手法、性能を把握するための実験データの信頼性などについて十分な情報が公開される必要がある。また、特性値が一義的に決定されたことで、それ以外の数値を設計に使うことが制限されたり、新しいデバイスを開発・実用化する際のハードルにもなっている。
 現在の段階では、多様な免震部材(デバイス)の提唱があり、アイソレータにダンパー機能を持たせたもの、滑りを利用したもの等、多くのアイディアや試作品が提供されている。何れも良いものは残り、そうでないものは淘汰されるであろう。しかし、各種免震部材の性能及びその信頼性について、実証と確認に関するデータがまちまちで、判断のための資料は不足している。建築構造に於ける"主要構造部材たる免震部材"との認識に立って、その品質,部材としての適応性等を総合的に判断することが必要であり、技術者(エンジニア)として自らの目で確認する事が望まれる現状である。此の点、設計者の責任は重大である。設計者は免震部材が柱や梁と同じ構造部材であるとの認識に立ち、免震部材の調査・研究を行い、デバイスの選択、設計、仕様の決定を行うべきである。この様な仕様に基づいて、メーカーはデバイスの製作方法を管理し、品質を一定の範囲内に納めなければならない。設計者には、デバイスの製作と性能・挙動に関する十分な認識が求められている。





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