わが国初の免震建物(八千代台住宅)が完成して2003年で満20年を迎えた。この間、免震構造の地震時挙動の把握、免震部材の性能向上などの免震技術は大いに進展し、これらの成果に基づいて免震性能は高められてきている。現在では、免震構造を知らない技術者の方が少ないと思われるが、今後も免震技術の更なる発展と検証は継続される必要がある。ここでは、免震建築の手法と、その優位性や現状の到達点について述べた後、構造設計全般を取り巻く現状について述べたい。 |
免震建築の手法 |
耐震設計のやり方には、次のような立場がある。 |
(1) |
地盤に建物を固定する。 |
(2) |
地盤と建物を絶縁する。 |
(3) |
附加装置を利用する。 |
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(1)から(2)へは色々な中間段階があり、大部分の建物に完全固定と、完全絶縁は不可能である。勿論、常温超電導の技術が建築レベルで信頼性と経済性を得る事態にでも入れば、(2)は極論でなく現実となる。 |
(1)の設計法で、建物の全ての部分を地動以下の動きにすることは出来ない。又、(3)の方法で如何なる附加装置を利用しても、骨組の変形に制限をつける限り地動からの解放は有り得ない。(2)の設計法は、ひとまず最も影響力の大きい水平動からの解放が可能となる。但し、それは地盤と建物の絶縁の程度によって影響を受ける。 |
過去の長い構造史の中で、基礎との緊結をルーズにしたために上部構造が地震の衝撃的破壊力から身をかわし得た例は、幾度か経験され、報告されている。しかし、この貴重な経験事実の説得性は弱く、現実の設計の上では殆ど生かされてはいない様である。 |
地盤からの絶縁の方法としては、吊す、転がす、滑らす、杭や支承で支えるなどが自然に思いつく。これらの考案は、洋の東西を問わず多様に報告され、1900年代以降、多くの例が示されている。巨大な建築の重量を支え、効果的な絶縁のレベルを維持し、なおかつ、現代的科学技術計算に耐えうる素材,工法の出現は、ようやく積層ゴムアイソレータによって、その目的を達成されることになったのである。 |
免震構法を支えるものはアイソレータである。アイソレータの積載能力、水平変形能力、バネの安定性(変動する鉛直荷重に対して水平バネがあまり変動しないことが重要な要件となる)、そして耐久性が免震構造成立の基本条件となる。 |
免震建築の特性は柔構造に似ている。ただし、超高層建築は建物各階を均等に変形させているのに対し、免震建築では建物の基礎部に変形を集中させることで建物の変形を桁違いに小さくしている。このため、免震建築では上部構造がひと塊となって水平方向にゆっくり動くようになる(剛体並進運動の実現)。即ち、建物に入ってくる地震エネルギーを免震部材(アイソレータとダンパー)により、遮断吸収してしまうのである。 |
積層ゴム部材は、薄い鋼板とゴムシートをサンドイッチ状に積層した基礎部材である。積層ゴムは建物全荷重を支えるのに十分な支持能力を有し、かつ、建物荷重を支えたまま水平方向に大きく変形することが可能である。積層ゴムに使用されているゴム材料は100年以上の耐久性をもつことが劣化試験や追跡調査などから確認されている。 |