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設計者のための免震入門(6) 積層ゴムの実験による性能評価
 
 
耐久性と耐火性
 積層ゴムは光や熱などの影響が小さい環境で使用されることが多いため、特に注意すべき要因としてはゴムの酸化反応とクリープである。積層ゴムの場合、ゴムと鋼板は薄いシート状に積層されていることから、酸素がゴム内部に浸透できるのは僅かな表面積である。従って、ごく表面は酸化劣化が起こるが、内部のゴムは健全なままである。このことは100年間使用されたオーストラリアの鉄道用防振パッドの経年変化調査などから確認されている11)12)。また、これらの変化は化学反応速度論を用いることにより加熱促進試験でその状態を予測することも行われている。文献13)14)では40年経過した英国のPelham Bridgeの天然ゴム系積層ゴム支承(613×410mm, ゴム厚18.4mm×5層)を取り出して実施した試験結果が示されている。ゴム材料の物性試験から、ゴム層端部から深さ50mmまではモジュラスが最高で20%程高くなっているが、破断伸びにはあまり変化が見られない、また、圧縮せん断試験から、水平剛性は10%程上昇していたことが示されている。この様なデータは積層ゴムの経年変化を追求する貴重な資料であると考えるが、ゴム材料の破断伸びが460%程度でゴム1層厚が厚い( S1 =12)など、現在の積層ゴムとは異なる点も多く、更なる検討が必要である。
 建築物では、米国で1985年に完成したFoothill Communities Law and Justice Centerの高減衰ゴム系積層ゴムを抜き取り、性能試験が実施された。特性変化はほとんど見られなかったと言われている。我が国でも初期に建設された免震建物が10年以上経過し、幾つかの建物で積層ゴムを実際に取り出して性能確認試験が行われている。これらの測定結果から剛性は数%上昇しているものの、10年程度では顕著な変化は認められていない。今後は経年劣化が剛性の変動だけでなく水平変形能力(破断特性)に与える影響についても調査を継続するとともに、促進劣化試験などによる劣化予測との比較を行うことが免震建物の信頼性を更に高めるために有効である。
 クリープに関しては、表2に示す3種類の天然ゴム系積層ゴムの試験結果が報告されている15)。3種類の試験体の直径はほぼ500mm、2次形状係数 は5前後で、1次形状係数 S1 と面圧が異なっている。図14にクリープ量の変化を示す。500-3.75×26試験体は6年8ヶ月の試験結果(現在も継続中、最新のデータに置き換えるか?)であり、他の試験体は2年間の結果である。2年後のクリープ量はいずれも非常に小さいが、面圧が大きくなるほどクリープ量が小さくなる結果となった。このことからクリープ量は面圧よりも S1 (あるいは鉛直剛性)による影響が大きいことが認められる。最もクリープ量が小さいのは面圧200kg/cm2 [19.6MPa]載荷の500-3.75×26試験体である。この試験体のクリープ量を時間の1次関数として近似して100年後のクリープ量を推定した。この評価は最も厳しい評価であるが、予想されるクリープ量は全ゴム厚の約3%であった。
図14 クリープ試験の結果
※クリックすると拡大します。
表2:クリープ試験の試験体概要
試験体名 直径 ゴム厚 層数 S1 S2 面圧(kg/cm2
500-7×14 500mm 7mm 14 17.9 5.1 110 [10.8MPa]
445-4×25 445 4 25 27.8 4.5 150 [14.7MPa]
500-3.75×26 500 3.75 26 33.3 5.1 200 [19.6MPa]



 クリープや経年変化は気温にも影響される。免震層の気温を約1年間計測した結果、外気温の変化に比べ免震層の気温の変化は小さいことが観測されており16)、積層ゴムの経年変化あるいは低温特性などを推測する場合には配慮が必要である。
 以上の試験や調査研究から、積層ゴムの耐久性は構造部材として十分な性能を有していると言える。
 積層ゴムの耐火性についてはゴムは可燃性であるため、耐火被覆をすることが行われている。耐火被覆により、ゴムの温度上昇をゴム物性が変動しない範囲に抑えることが可能となる。一方、積層ゴム自体の耐火性に対する実験も行われている17)。文献18)では直径1mと1.6mの耐火被覆無しの積層ゴムを面圧50kg/cm2 [4.9MPa]を載荷した状態で加熱試験を行っている。この結果、温度420℃でゴム層が着火し、被覆ゴム層が剥落するものの、直径1mの試験体で2時間以上、直径1.6mで3.5時間以上軸力を保持していたと報告されている。直径が小さい積層ゴムでは軸力保持時間は低下すると思われるが、耐火被覆が無くても荷重支持能力がすぐには消失しないと言える。


参考文献
1) 高山「免震構造用天然ゴム系積層ゴムアイソレータの限界性能」日本建築学会技術報告集、第1号、1995
2) 高山、多田ほか「積層ゴムアイソレータの限界耐力に関する実験研究」日本建築学会学術講演梗概集、19991.9
3) G. L. Bradley, P. C. Chang and A. W. Taylor :"Determination of the Ultimate Capacity of Elastomeric Bearings Under Axial Loading", U.S. Department of Commerce, National Institute of Standards and Technology, February 1998
4) 大鳥「積層ゴム免震要素の引張許容応力設定に関する検討」日本建築学会大会学術講演梗概集, pp535-536, 1997
5) 高山「積層ゴムアイソレータのオフセットせん断−引張試験(続報)」日本免震構造協会MENSHIN、No.30、2000.11
6) 村松、西川ほか「大サイズ天然ゴム系積層ゴムアイソレータの引張特性」日本建築学会技術報告集、第12号、2001.1
7) 瓜生、高山ほか「高面圧下における積層ゴムアイソレータの実大実験(その1)〜(その3)」日本建築学会大会学術講演梗概集、1995.8
8) 瓜生、高山ほか「高面圧下における積層ゴムアイソレータの実大実験(その4)(その5)」日本建築学会大会学術講演梗概集、1996.9
9) Buckle, I. G. and Liu, H. : "Stability of Elastomeric Seismic Isolation Systems", Proceedings of Seminar on Seismic Isolation, Passive Energy Dissipation and Active Control, ATC-17-1, Vol.1, 1993
10) 北村、高山ほか「高面圧下における積層ゴムアイソレータの基本特性 −積層ゴムの構造に基づく比較−」日本建築学会大会学術講演梗概集、1995.8
11) 日本建築学会:免震構造設計指針、1993
12) N. Yamazaki, H. Nakauchi et al. : Durability of Rubber Isolators - Characterization of a 100 Years Used Rubber Bearing, Int. Workshop on Recent Development in Base-Isolation Techniques for Buildings, 1992.4
13) M. Kato, Y. Watanabe et al. : Investigation of Aging Effects for Laminated Rubber Bearings of Pelham Bridge, Proc. of 11WCEE, MEXICO, 1996.6
14) 藤田、加藤ほか「FBR免震設計に関する研究(その6)〜(その8)」日本建築学会大会学術講演梗概集、1996.9
15) 森田、高山ほか「天然ゴム系積層ゴムアイソレータのクリープ試験 −面圧200kg/cm2下でのクリープ試験結果−」日本建築学会大会学術講演梗概集、2001.9
16) 村松、永井ほか「免震建物の維持管理における免震層温度および積層ゴム特性の追跡調査結果」日本建築学会大会学術講演梗概集、1999.9
17) 堀、梅木ほか「FBR免震設計に関する研究 −その16 コーンカロリーメーターによる免震ゴム材料の燃焼性評価−」日本建築学会大会学術講演梗概集、1997.9
18) 加藤、道越ほか「FBR免震設計に関する研究 −その28 積層ゴムの載荷加熱試験−」日本建築学会大会学術講演梗概集、1999.9





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