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設計者のための免震入門(6) 積層ゴムの実験による性能評価
 
 
引張特性
 初期の免震構造の設計においては、積層ゴムに引張力(引き抜き力)を作用させないことを基本としていた。しかし、近年免震建物が高層化するに伴い、積層ゴムの引張性能が再評価されるようになった。それらの試験結果から、積層ゴムの引張抵抗力は圧縮側に比べれば小さいものの、引張変形能力は非常に高いことが分かってきた。ただ、免震構造の設計において、免震周期を十分長くするなど性能を高めることで、積層ゴムに引張力を作用させない設計も十分可能である。
 図4に天然ゴム系積層ゴム500-3.75×26にオフセットせん断ひずみ200%を与えた状態から引張方向に単調に載荷した時の履歴特性を示す。ゴム材料のせん断弾性係数は4.5kg/cm2 [0.44MPa]である。引張ひずみ(鉛直変形/ゴム総厚)は5%〜100%まで変化させている。引張ひずみ10%、引張応力度15kg/cm2 [1.5MPa]程度まではほぼ弾性的な挙動を示しており、これ以内では積層ゴムの特性に大きな影響はないと考えられる。それ以降の変形域では剛性が急激に低下し、バイリニア的な挙動となる。せん断ひずみ200%で引張ひずみ100%を与えた時の変形状態を写真2に示す。中間鋼板が回転を起こし、ゴム層のひずみも不均一であることが分かる。しかし、外観上有害な損傷は認められない。
図4 天然ゴム系積層ゴムの引張特性
写真2 天然ゴム系積層ゴムの引張変形状態
写真2 天然ゴム系積層ゴムの引張変形状態
(せん断ひずみ200%+引張ひずみ100%)
 初期引張剛性は圧縮剛性に比べ1/5〜1/10程度で、線形引張応力度4)はゴム材料のヤング率相当である。せん断ひずみが大きくなるに従い、引張剛性や線形引張応力度は低下する傾向にある。
 引張ひずみを受けた後の基本特性を調査した試験では、圧縮剛性や水平剛性が多少低下する程度で大きな変化は見られなかった。しかし、引張試験での引張荷重は低下しており、ゴム層内部に損傷が発生していることは確認された。引張試験後の積層ゴムを用いて圧縮せん断破壊試験が実施されたが、破断性能が特に低下することは認められていない5)。これらの試験結果は未だ十分ではなく、ゴム層の損傷の定量化や損傷が破断変位や経年変化に与える影響を評価することが使用限界を厳密に評価する上で必要不可欠であると言える。
 ゴム層が引張を受けた場合、ゴム層中心部は負圧となり体積変化に追従できないためにゴム内部に損傷(ボイドと呼ばれる)が発生する。これはゴム層の引張破断面に多くの小さな窪みが観察されることからも説明できる。引張変形が大きくなるとボイドの発生が増えるものの、外周部のゴムは3軸引張状態から解消されるため、大きな引張変形が可能となる。ボイドの発生応力度は、ゴム材料のヤング率の1/2相当であると言われており、引張による損傷を防ぐためにはそれ以下の引張面圧にすることが必要となる。しかし、大きな引張変形を与えた後の荷重支持能力や水平方向の破断変形が低下しないことから、ヤング率相当まで引張応力を許容することは可能ではないかと思われる。
 引張方向の破断引張ひずみとせん断ひずみの関係を図5に示す。積層ゴムに単調に引張載荷を与えた場合、破断引張ひずみは300%以上となる。図中の直線は天然ゴム系積層ゴムの試験結果を参考に文献1)で提案された限界ひずみである。図中には天然ゴム系(NRB)、高減衰ゴム系(HDR)、鉛プラグ型積層ゴム(LRB)の試験結果も示されている。破断した試験体の中にはせん断ひずみ200%で引張ひずみ50%程度で破断した例もある。これは限界特性を評価するにはゴム材質や物性が非常に大きな影響を持つ場合があることを示している。
図5 積層ゴムの引張限界ひずみ
 また、フランジの面外変形によりゴム層のひずみ分布は不均一となる。この影響は積層ゴムが大きくなるほど影響が大きくなることが想像され、引張特性のスケール効果についての検証も必要である。一例であるが文献6)では直径1200mm、800mm、500mmの天然ゴム系積層ゴムを使用した引張試験結果から、直径が大きいほど引張破断ひずみが低下することが示されている。
 ここで紹介した試験はオフセット変形を与えた状態からの引張試験であったが、鉛プラグ挿入型積層ゴムなどでは引張作用下でのせん断変形試験を実施し、減衰特性(履歴特性)が受ける影響について検討しておく必要があろう。





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