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設計者のための免震入門(8) 免震層の設計
 
 
(6)積層ゴムの水平剛性の総和 ΣKH を算出
 (5)で決定された積層ゴムの水平剛性を算出し、免震層全体の水平剛性 ΣKH を求める。水平剛性は、中心孔径が小さい場合には次式で略算できる。

(c)

中心孔が大きい場合には、座屈荷重を低下させる要因となるので、中心孔はできるだけ小さい方がよい


(7)免震周期の比較

 (6)で求められた水平剛性 ΣKH より周期 Tƒ0 を次式により計算する。

(d)

ここで、 W :建物全重量、 g :重力加速度
 (1)で設定した免震周期 Tƒ と Tƒ0 の比較を行い、両者がほぼ一致する場合にはGへ、異なる場合には(5)へ戻り積層ゴムの再設定を行う。


(8)積層ゴムの仕様の決定
 積層ゴムの1次形状係数 S1 は、積層ゴムのゴム厚 tR とゴム層数 n に関係している。全ゴム層厚は2次形状係数より決定されるため、1次形状係数を満足するようにゴム厚と層数を決定すれば良いことになる。
 積層ゴムの水平剛性の低下を10%以下とするためには、1次形状係数は次式を満足する必要がある。また、積層ゴムの製作精度を考慮して、程度がゴム層の厚さの限界ではないかと思われる。

(e)

 中間鋼板の厚さ ts は、現在の製品では、 ts / tR 程度であり、 ts =2〜4mm程度である。せん断変形時には中間鋼板は面外変形を起こす。特に反力中心の直下の中間鋼板と中心孔の周辺では塑性化する可能性が高い。よって、面圧が高い場合には、 ts / tR 0.75 程度か、もしくは高張力鋼の使用などを考える必要がある。


(9)ダンパーの設計
 ダンパーがアイソレータ(積層ゴム)と別に設置される場合には、積層ゴムの設計とダンパーの設計・配置は別に実施できる。すなわち、ダンパーの総量は設計しようとしている建物に要求される減衰量を満足するようなダンパーの種類と個数を配置することになる。
 履歴型ダンパー(高減衰ゴム系積層ゴムも復元力モデルは弾塑性型であり、同様に取り扱える)の場合、ダンパーの降伏せん断力係数は αs は、0.03〜0.05程度をなることが多い。
 ダンパーには地震エネルギの吸収のほかに、強風時に免震層が大きく変形しないような拘束効果も求められる。風荷重に対してダンパーの変形が弾性範囲であれば問題はないが、塑性化を許容する場合には、長時間にわたる繰り返し変形に対する安全性を検討する必要がある。また、風荷重に対するダンパー復元力のモデル化では、風荷重による変形が小変形であること、オフセット変形をした状態からの繰り返し変形となることなどを考慮すべきであり、地震荷重用の復元力モデルをそのまま適用できるか否かについては慎重に検討すべきである。住宅などのように上部構造が軽量の場合には地震荷重よりも風荷重の方が大きくなるため、ダンパーとは別にストッパーを設けることも多い。


(10)免震部材まわりの設計
 アイソレータやダンパーが取り付く柱や基礎構造には、水平変形に伴ってせん断力が生じることになり、軸力とせん断力を適切に伝達できるようにしなければならない。加えてアイソレータの場合には、所定の軸力を支持しておりせん断変形にともなって偏心による曲げモーメントが加わることになる。偏心曲げモーメントは次式となる。

(f)

ここで、P:柱軸力、Q:積層ゴムのせん断力、
δ :水平変形量、 H:積層ゴム中心からの高さ
この曲げモーメントによりアイソレータに大きな曲げ変形が生じないような曲げ剛性も躯体側に要求される。通常は積層ゴムの上下の梁、柱および杭で処理することになる。


(11)免震部材の配置
 積層ゴム(アイソレータ)は柱下に1体設置する。もし、柱軸力が大きく、積層ゴムの直径が過大になるような場合には、柱下に2体以上のアイソレータを設置する。アイソレータのサイズが大きくなるとメーカーが所有している試験装置では製品性能の十分な評価が難しくなる。そこで、品質を確認できるサイズ、実績が豊富な製品サイズを選択することが免震建物としての品質を確保するには有効である。
 ダンパーの配置にあたっては免震層の捩れが起きにくいように、すなわち免震層の剛心と上部建物の重心が一致するようにする。ダンパーが降伏すると免震層の剛性が変化するが、その場合でもできるだけ剛心と重心が大きく離れないことがねじれ応答が大きくならないために重要である。
 ダンパー機能を有する鉛プラグ型積層ゴムやすべり支承などを使用する場合には、支承(ダンパー)の位置が柱の位置に固定されるため、重心と剛心をあわせるための調整が複雑である。


 以上より免震層の設計は完成する。使用する免震部材・装置により多少の違いがあると思われる。しかし、基本的な考えは同じである。使用する免震部材の特性、限界状態を正確に把握し、免震部材に作用する荷重・変形などを予想し、それに伴う免震部材の特性変化の程度を確認した上で設計や解析に反映させることが肝要となる。加えて、免震部材のモデル化(剛性や降伏耐力など)が設計や解析にとって十分な精度と妥当性を有していることを確認することが大切である。





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