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設計者のための免震入門(7) ダンパーの役割と減衰特性
 
 
ダンパーの役割と種類
 免震構造の応答変形を設計範囲内とし、振動を早期に収束させるためには適切な減衰能力を付与する必要がある。免震建物に付与する減衰量には、地震動の入力レベルに応じた適切な量が存在する。減衰量を適切に付与することで、免震層の応答変位のみならず、上部構造の応答加速度も十分に低減させることが可能となる。減衰を付与する機構・機能をダンパーと称する。
 ダンパーは種々の形状、機構、材質をもつものがいろいろと考案され、使用されてきている。免震構造の初期には鋼材や鉛を用いたダンパーが種々考案され、その後、摩擦を利用したダンパーや粘弾性体を用いたダンパーなども考案された。現在ではアイソレータにダンパー機能を複合したアイソレータも利用されている。これらの複合型アイソレータには荷重支持能力が求められるが、アイソレータと独立したダンパーには荷重支持能力は基本的に必要ない。
 アイソレータと組み合わせて用いられるダンパーを作動原理の面から分類すると次のようになる。
1)履歴減衰型: 鋼棒ダンパー、鉛ダンパー、摩擦ダンパーなどのように主として変形履歴にともなうエネルギー消費を利用するもの
2)粘性減衰型: 粘弾性ダンパー、オイルダンパーなどのように主として速度依存型の粘性抵抗を利用するもの
 履歴減衰型は鋼材や鉛材などの塑性変形を利用したものであり、比較的簡単な機構により必要な減衰力を得ることができる。復元力特性は素材の特性により変化するが、軟鋼を用いたダンパーでは滑らかな紡錘型を示す。弾塑性型に用いられる素材は古くから建築で使用されてきた鋼材や、自然界で最も安定した鉛などであり、耐久性に関しては問題が無く、メンテナンスも簡単な対策で対応可能である。
 写真1に鉛ダンパー(U180型)の外観を示す。ダンパー形状はU字形に湾曲した円柱状であり、上下端に躯体取り付けのための鋼製フランジを有している。材質は純度99.99%以上の鉛である。図1は周期4秒で加振した時の水平荷重−水平変位関係である。初期剛性が非常に高く、剛塑性型の復元力特性を示す。水平変形が大きくなると履歴特性はハードニング型となる。これは、鉛軸部の軸方向変形が表れたためである。水平変形±55cmの加力を16サイクル以上繰り返してもエネルギー吸収能力は極端には低下していない。U型鉛ダンパーの降伏耐力は鉛軸部の直径の約3乗に比例して高くなる。
写真1:U180型鉛ダンパー
写真1:U180型鉛ダンパー


図1:U180型鉛ダンパーの履歴特性
図1:U180型鉛ダンパーの履歴特性
(周期4秒、振幅55cm、16サイクル以上)


 写真2はループ状鋼棒ダンパーであり、図2は静的加力による履歴特性の例である。鉛ダンパーとは異なり、紡錘型の履歴特性を示す。ループ状鋼棒の直径やループ径を変えることで降伏耐力や変形能力を変えることができる。1つのループ状鋼棒であれば加力方向により履歴特性に差が生じるが、4体を組み合わせることで加力方向の違いによる影響を無くしている。
写真2 ループ状鋼棒ダンパー
写真2:ループ状鋼棒ダンパー


図2:ループ状鋼棒ダンパーの静的漸増試験結果 
(ループ半径265mm、鋼棒直径70mm)


 摩擦ダンパーは皿バネなどを用いて摩擦面同士を一定の力で接触させるタイプと支承として建物の荷重を支持しながら摩擦によるエネルギー吸収を行うタイプ(例えば、弾性滑り支承)がある。これらの復元力特性は完全剛塑性型の形状を示す。摩擦係数は摺動材の種類(テフロン(4フッ化エチレン樹脂Polytetrafluoroethyleneの商品名)に代表されるフッ素樹脂など)やその組み合わせにより変化するのは当然であるが、面圧、速度、温度の影響をうけて変動する。そのため実大試験体による加振試験に基づいて摩擦係数の変動などを評価することが必要である。特にすべり支承として建物を支持する場合には、地震時の軸力変動に伴う摩擦力の変化による減衰特性の変動や水平履歴特性の変化を解析上考慮することが求められる。すべり支承をできるだけ建物の中心部に配置することで多少とも軸力変動を抑えることが試みられている。
 粘性減衰型にはピストンシリンダー構造を持ち、流体の乱流抵抗を利用するオイルダンパーと、粘性体のせん断変形を利用する粘性体ダンパーなどがある。このタイプでは、速度のべき乗にほぼ比例した減衰力が得られている。復元力特性は滑らかな楕円形状を示し、フロアレスポンスの観点からは有利である。しかし、使用している粘性材料の経年変化(メンテナンスの問題)や抵抗力の温度依存性、速度依存性など取り扱いには注意が必要である。





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