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設計者のための免震入門(4) 積層ゴムの構造と特徴
 
 
積層ゴムアイソレータへの要求性能
 積層ゴム部材に求められる基本的機能として、下記の5項目が挙げられる。積層ゴムには、これらの機能を満足することに加えて、微小変位から破断に至るまでの履歴特性が、設計判断上定量的に把握されていることが求められる。
a) 長期間安定した荷重支持能力
b) 予想される地盤との相対変位に追随できる大変形能力と復元能力
c) 柔らかい水平剛性
d) 大変形時に不安定現象が生じない
e) 圧縮荷重の変動に対して水平剛性の変動が小さい
 項目a)はアイソレータとして最も基本的な性能で、高い鉛直剛性と耐久性が求められる。地震時には地盤と建物の間に大きな相対変形が発生することになり、建物を支持しながら相対変位に十分対応できるだけの変形能力と原位置への復元能力が必要である。免震構造の性能は、建物の周期に影響される。周期は積層ゴムの水平剛性に直接関係しており、積層ゴムの水平剛性が小さくなるほど周期が延びるのは明白である。積層ゴムの水平剛性を小さくするには、ゴム材料を柔らかくする、あるいは積層ゴムの形状を細長く(成に対して径が小さく)するしかない。積層ゴムの形状を細長くした場合、大変形時に座屈などの不安定現象を生じやすくなる。積層ゴムに作用する軸力は常に一定とは限らない。特に、地震時には転倒モーメントや鉛直地震力により積層ゴムの軸力は変動する。軸力の変動により積層ゴムの水平剛性が変動すれば、設計や解析の際に水平剛性を一定値として扱うことができずに、非常に複雑な解析が必要となる。このように、項目d)とe)を満足することは設計の信頼性と簡便さを保つ上で重要な性能である。この性能を満足するためには、ある程度扁平な積層ゴムを使用することが必要となる。
積層ゴムの耐荷機構
 積層ゴムが圧縮を受けたとき、ゴムは外側へ変形しようとするが中間鋼板により変形が拘束され、更にゴム材質の非圧縮性(ポアソン比が約0.5)により、ゴム層中心部に3軸圧縮応力(静水圧)状態が形成される。これは、あたかも水がゴム(分子の網目構造)中に閉じこめられ、ゴム層が"漏れない水"になっているようなものである。従って、圧縮による変形量は非常に小さく、高い圧縮剛性を発揮することができる。一例として、ゴム直径70cm、全ゴム厚14cm(0.7cm×20層、S2=5)の積層ゴムと同じ断面積のRC柱(断面62×62cm、長さ400cm)との圧縮剛性を比較してみる。積層ゴムの圧縮剛性は、ゴムのせん断弾性率を4kg/cm2、体積弾性率を20t/cm2として計算すれば、約2140t/cmとなる。RC柱の鉛直剛性は、コンクリートのヤング率を210t/cm2とすれば、約2018t/cmとなり、両者の圧縮剛性が変わらないことがわかる。このようなゴムの強さを証明した試験が天然ゴム系積層ゴムアイソレータの圧縮破壊試験である。試験体の直径は500mm、ゴム1層厚は7mm、ゴム層数は14である。最終的に、試験体は面圧1500kg/cm2 (3000ton)を超えたところで破断した。破断面の観察から積層ゴムの破断は中間鋼板が中心部分から引張破断し始め、ゴム層の拘束が失われた結果、積層ゴムとしての耐荷機構が崩れて完全破断に至ったと考えられる。この結果から、積層ゴムの圧縮耐力は中間鋼板の厚さや強度に支配されていることが確認された。積層ゴムのような使い方をすれば、"ゴムは鉄よりも強し"ということになる。
 積層ゴムにせん断力が作用するとき、中間鋼板はゴム層のせん断変形(体積変化なし)を拘束しないため、ゴムシート自体の柔らかな水平剛性を発揮できる。積層ゴムが大きく変形した場合でも荷重支持能力は保持されている。これは、図3に示すように積層ゴムの最上下面の重複部分(有効支持部と呼ぶ)において3軸圧縮応力状態が形成され続けるためである。この有効支持部分で大部分の圧縮荷重が支持され、この部分の圧縮応力度(反力)は非常に大きくなるが、その反面引張反力の発生は非常に小さい。また、せん断変形時には、ゴムによる"水"の拘束効果が小さくなるため、圧縮剛性はほぼ有効支持部の断面積に比例して小さくなると考えられるものの、依然鉛直剛沈み込み量は非常に小さいレベルにある。このような耐荷機構により積層ゴムは大きな荷重を支えながら水平方向に大きく変形することが可能となる。
 また、積層ゴムの中心には中心孔が設けられていることがある。この中心孔は積層ゴム製造時の加硫工程において、外周からだけでなく中心からも熱を加えることで熱の分布を均一化し、製品の品質を保つ上で必要であると言われている。鉛直荷重の支持メカニズムは、積層ゴム中心部に3軸圧縮応力状態が形成されることで発揮される。積層ゴムの有限要素解析から中心孔が存在した場合、存在しない場合に比べて中間鋼板に生じる応力度が2倍程度大きくなり、降伏域も大きくなることが示されている。このように積層ゴム中心部は耐荷機構上非常に重要な部分であり、中心孔はない方がよいことは明らかであるものの、中心孔の影響に関する研究は不足しており今後詳細な検証が必要であると考える。
 また、積層ゴムには積層ゴムの耐候性向上、積層ゴム本体の保護のため外周に被覆ゴムを取り付ける。この被覆ゴムを積層ゴム本体が製造された後で取り付ける場合と積層ゴム本体と一緒に加硫成型する場合とがある。前者を被覆ゴム後巻き型、後者を被覆ゴム一体型とも呼ばれる。被覆ゴム後巻き型では中間鋼板の直径がゴム層より少し大きく、ゴム層の横方向へのはらみだしを拘束する効果もある。また、被覆ゴム一体型では不可能に近いが、後巻き型では各ゴム層の厚さやゴム層数の確認も可能であり、ゴム層と中間鋼板の接着不良などの欠陥も容易に検出できる。
 積層ゴムの耐久性は厳密には実証されていない。しかし、100年間使用されている橋梁用ゴムパッドの劣化状態の調査、積層ゴムの加熱促進試験(熱により化学反応速度が増大することを利用)、更には、長期間にわたるクリープ試験などにより、建築物と同等以上の耐久性は有していると確信できる。





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