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設計者のための免震入門(4) 積層ゴムの構造と特徴
 
 
免震建物の地震時挙動
 地震時における完全な絶縁は建物全てを宙に浮かせることであろう。しかし、現状の技術レベルではほとんど不可能である。建物を地盤から絶縁する方法としては古くからいろいろな提案がなされてきている。免震建物はアイソレータにより支持されており、アイソレータの水平剛性を小さくすればするほど完全絶縁(絶対免震)に近づき、建物への地震入力は低減され、応答加速度は非常に小さくなる。一方、地盤と建物間の相対変位(免震層変位)は水平剛性が柔らかくなるほど増加する傾向にある。このように応答加速度と免震層変位の関係は相反する性質を示す。しかし、減衰性能(ダンパーの性能)を適切に付与することで、応答加速度を低減し、かつ免震層変位を適切な範囲内に納めることが可能となる。
 このことは図1に示す応答スペクトルの概念図を用いて次のように説明できる。一般に加速度応答は建物の固有周期が短かければ大きく、固有周期が長くなるほど小さくなる。逆に、変位応答は短周期構造物では小さく、長周期構造物では大きくなる。また、構造物の減衰を大きくすることで、加速度・変位応答ともに小さくすることができる。免震建物の周期はアイソレータに依存し、減衰量はダンパーにより決定さる。免震建物の周期や入力地震動の大きさに応じて、最適な減衰量が存在する。
 免震構造は免震層に変形を集中させ、上部構造は剛体として挙動する非常に明快な構造システムである。従って、免震構造の地震時応答は図2に示すような1質点系(免震層より上の建物は剛体として振動するので1つの固まりとして表現)の振動モデルで表すことができる。天然ゴム系積層ゴムの荷重−変形関係は、大変形領域ではハードニング傾向を示すが、通常の設計変位領域では線形の復元力特性(バネ特性)で代表できる。弾塑性型ダンパーは、基本的にバイリニア型でモデル化できる。
 図2に示すような免震モデルの弾塑性応答解析から、(1)式で定義される免震周期 Τƒ を横軸にとり、ベースシア係数と免震層変位の最大値を縦軸にとって応答スペクトルを描くことができる。こうして得られた応答スペクトルより、免震周期 Τƒ が4秒以上では地震波の種類にかかわらず応答は一様となり応答レベルも十分小さくなる。このことは、上部構造の設計自由度の拡大、及び軟弱地盤や超高層建築への免震構造の適用を十分可能なものとする。
 Τƒ が4秒以上の免震構造は"4秒免震"とも呼ばれる。"4秒免震"とは、免震建物と地盤との相互関係、免震部材の性能と信頼性の確保、免震層と上部構造との相互関係などを考慮した上で、建物が地盤から十分絶縁されているという判断が含まれており、単に免震周期だけの問題ではない。逆に、地盤(下部構造)−免震層−上部構造の相互作用を考えたときに免震性能の信頼性が十分確保されていない場合には、周期が4秒を超えていても"4秒免震"とは呼ばない。4秒免震のためには、免震層に配置するアイソレータやダンパーの性能やその信頼性が十分確保されている必要がある。
 免震建物の特性は超高層建築のような柔構造に似ている。ただし、超高層建築は建物各階を均等に変形させているのに対し、免震構造では建物の基礎部に変形を集中させることで建物の変形を桁違いに小さくしている。図3に免震構造の振動のイメージ図を示す。このように、免震建物では上部構造がひと塊となって水平方向にゆっくり動くようになる(剛体並進運動の実現)。即ち、建物に入ってくるエネルギを免震部材(アイソレータとダンパー)を使って、遮断吸収してしまっているともいえる。免震層にエネルギを集中させる、あるいは変形を集中させることで、免震建物の加速度や変形は大地震時にも相当小さくすることができるとともに、建物内部の什器や機器類の転倒、更には2次部材の損傷も起こらず、大きな安心感を得ることができる。
 アイソレータやダンパーの性能は実物実験により事前に確認できる。従って、免震建物が地震時にどの様な動きをするかは正確に予測でき、地震時の建物性能を事前に評価する事が可能である。このためには、アイソレータとダンパーの特性を十分に把握した上で使用することが重要になる。
 現在のところ免震構造では鉛直方向に対する免震効果を期待していない。そのため、鉛直方向加速度は若干増幅することもある。建物内部に精密機器や美術品などが存在するために、内部空間の高度な安定性が求められる場合には、鉛直方向だけ免震するような床免震や免震装置を追加することで3次元免震を実現することも容易になると思われる。
(1)式





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