ここで、 We(t) は時刻 t までのアイソレータの弾性歪みエネルギー、 Wp(t) はダンパーの消費エネルギー、 E(t) は地震による入力エネルギーである。図1に示すような1自由度系モデルへ地動加速度 が作用する場合の地震入力エネルギーは、次式に示すように時々刻々の慣性力()に応答の変位増分(dx)を乗じて積分することで計算できる。
図1:1自由度系振動モデル
地震入力エネルギーEは建物質量Mで規準化されエネルギーの等価速度 VE に変換して用いられることが多い。
地震入力エネルギーの等価速度 VE と周期の関係を示したものがエネルギースペクトルである。図2には粘性系や履歴系に対して求められたエネルギースペクトルの例を示す。エネルギースペクトルは一種の応答スペクトルであるが、通常の応答スペクトルでは減衰が大きくなるに従い応答値は減少するのに対し、エネルギースペクトルではある一定値に収束する。すなわち、減衰が0の振動系への入力エネルギーは非常に変動が大きいものの、粘性減衰が増える、あるいは塑性化が大きな系になれば入力エネルギーが平滑化されることがわかっている。
図2:エネルギースペクトルの例1)
文献1)2)ではこの様なエネルギースペクトルに基づいて設定された設計用エネルギースペクトルも提案されている。設計用エネルギースペクトルは粘性減衰10%の弾性振動系の入力エネルギーとして求めるこができる。ほとんどの観測地震波のエネルギースペクトルは振動系の周期が長くなれば低下する傾向にある。しかし、地盤の種別や地震波の特性によっては、長周期領域での入力エネルギーがどのようになるかは予測できないため、設計用スペクトルとしては長周期領域で一定値、短周期領域で一定の勾配をもつバイリニアタイプのスペクトルが提案されている。このため免震構造の周期領域では は一定値となり、地盤種別ごとに VE =120, 150, 200, 300cm/sが提案されている。免震構造設計指針には様々な観測地震波に対するエネルギースペクトルが示されているので参照されたい。これまでの時刻歴応答解析でよく利用されてきたEL CENTRO波、八戸波を50cm/sに規準化した入力波の入力エネルギーの速度換算値は150cm/s程度、兵庫県南部地震の際の震源地近傍での観測波では、300cm/s程度であったとの報告もある。