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設計者のための免震入門(10) 免震構造の地震答予測
 
 
 免震構造は免震層にエネルギー(変形)を集中させる明快な構造である。このため地震により建物に入力された全てのエネルギーを免震層で吸収することになる。入力エネルギーと吸収エネルギーのバランスを考慮することで免震層の応答変位や応答せん断力係数を予測する方法が確立されている。これを包絡解析法1)2)と呼ぶ。
 包絡解析法の導出と適用性について紹介するとともに、エネルギーの釣り合いからわかる免震構造の応答特性についても紹介する。


入力エネルギーの計算
 建物下部にアイソレータとダンパーを配置した免震層を有する免震建物を対象とする。アイソレータとダンパーのみが地震エネルギーを吸収するものとし、上部構造は地震エネルギーの吸収を行わないものとする。この時、エネルギーの釣り合い式は次式で表される。
(1)

ここで、 We(t) は時刻 t までのアイソレータの弾性歪みエネルギー、 Wp(t) はダンパーの消費エネルギー、 E(t) は地震による入力エネルギーである。図1に示すような1自由度系モデルへ地動加速度 が作用する場合の地震入力エネルギーは、次式に示すように時々刻々の慣性力()に応答の変位増分(dx)を乗じて積分することで計算できる。

図1 1自由度系振動モデル
図1:1自由度系振動モデル


地震入力エネルギーEは建物質量Mで規準化されエネルギーの等価速度 VE に変換して用いられることが多い。
 地震入力エネルギーの等価速度 VE と周期の関係を示したものがエネルギースペクトルである。図2には粘性系や履歴系に対して求められたエネルギースペクトルの例を示す。エネルギースペクトルは一種の応答スペクトルであるが、通常の応答スペクトルでは減衰が大きくなるに従い応答値は減少するのに対し、エネルギースペクトルではある一定値に収束する。すなわち、減衰が0の振動系への入力エネルギーは非常に変動が大きいものの、粘性減衰が増える、あるいは塑性化が大きな系になれば入力エネルギーが平滑化されることがわかっている。
図2:エネルギースペクトルの例1)


 文献1)2)ではこの様なエネルギースペクトルに基づいて設定された設計用エネルギースペクトルも提案されている。設計用エネルギースペクトルは粘性減衰10%の弾性振動系の入力エネルギーとして求めるこができる。ほとんどの観測地震波のエネルギースペクトルは振動系の周期が長くなれば低下する傾向にある。しかし、地盤の種別や地震波の特性によっては、長周期領域での入力エネルギーがどのようになるかは予測できないため、設計用スペクトルとしては長周期領域で一定値、短周期領域で一定の勾配をもつバイリニアタイプのスペクトルが提案されている。このため免震構造の周期領域では は一定値となり、地盤種別ごとに VE =120, 150, 200, 300cm/sが提案されている。免震構造設計指針には様々な観測地震波に対するエネルギースペクトルが示されているので参照されたい。これまでの時刻歴応答解析でよく利用されてきたEL CENTRO波、八戸波を50cm/sに規準化した入力波の入力エネルギーの速度換算値は150cm/s程度、兵庫県南部地震の際の震源地近傍での観測波では、300cm/s程度であったとの報告もある。
 入力エネルギー量を時刻歴応答解析により求め、入力エネルギーと時間との関係を描くことができる。弾性振動系への入力エネルギーは最大の変位応答が発生する時刻で最大の入力エネルギーを示す。一方、減衰の大きな系や塑性化が進行する系では入力エネルギーは単調増加となり、入力エネルギーの大部分が減衰あるいは塑性ひずみによる吸収エネルギーとなる。
 (1)式は免震層が最大変形を示す時刻 t=tm においても当然成立する。一般に塑性化の程度が大きな系では最大変形を示す時刻での入力エネルギー量 E(tm) は最大値をとらないため、地震終了時 ( t=t0 ) の入力エネルギー総量 E(t0)となる。従って、(1)式において t=tm として免震層の最大変位を予測する時、右辺を E(t0) で置き換えることは安全側の予測を行うことにつながる。しかし、地震波の特性によっては VE(t0)VE(tm) の差が大きくなる場合があり、応答予測の精度を低下させる原因となる。





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